STORY02 次世代のニーズを先読み。
世界最先端の「新電波測定サイト」開設。

アンテナの性能や品質を確保するためには、より高精度な測定が必要とされる。ヨコオは自社施設としてこれまでに4つの「電波測定サイト」を所有していたが、2018年に新たな電波測定サイトを完成させた。次世代のニーズを先読みし、世界最先端の性能を持つ施設を生み出すまでのストーリーを探る。

アンテナ開発を加速させる
最新鋭の施設を目指して。

新電波測定サイトの構想がスタートしたのは2016年。ヨコオではさまざまな周波数に対応した車載アンテナを開発しているが、その開発領域が広がるにつれ現場からは新電波測定サイトの建設が求められるようになっていた。
「AM/FM、ナビゲーション、デジタル放送、データ通信……メディアが多くなるにつれて車載アンテナは複合化する傾向にある。ひとつのアンテナが受信するメディアの多さに比例して測定すべき周波数の帯域も広くなっていくため、その変化に対応するにはより高速・高精度・高周波な電波測定サイトをつくる必要があると判断した。」と、技術本部長のAは当時を振り返る。
「従来の電波測定サイトは15年以上前に建設したもので、主に3Gでの通信性能を想定してつくられている。間もなく訪れる5Gやその先にある6Gへの突入、車車間通信や路車間通信といった車と車、あるいは車とモノの通信技術が進化することで、近い将来ADAS※の技術が一般化することは間違いない。」と語るのは技術戦略推進室の上席技師Mだ。
自動車に搭載されているアンテナは上方にある基地局に向けて垂直に電波を受発信している。しかし、前後を走る自動車同士の通信や、自動車と道路に設置された通信設備との通信が主流になれば、アンテナの電波受発信数は大幅に増える。その結果、アンテナに求められる性能は高速・大容量の通信性能だ。こうした背景から、一大プロジェクトとして新電波測定サイトの建設がスタートした。しかし、理想とする高性能な施設を実現するのは決して容易なことではなく、その過程にはさまざまな試行錯誤があった。

※ADAS……Advanced DriverAssistanceSystemsの略。自動車のドライバーの運転操作を支援するシステムのこと。

前例のない電波測定サイト。
その実現のために。

電波測定サイトを建設するにはあらゆる面で綿密なプランニングが必要となる。工期の取り決め、敷地面積の確保、仕様の検討など多くの検討項目がある中で最も重視したのは設備面だ。
Aは言う。「新しい電波測定サイトには車輌を乗せて電波を測定するために『直径12mのターンテーブル』を備えている。これは業界初の大きさで、誰も見たことがなければつくったこともないもの。前例がない未知の領域への挑戦となった。」
世の中に現存するどんな車輌にも対応するには、この長さのターンテーブルが必要だったが、どうすれば車輌の重さに耐えられるのか、どうすればスムーズに軌跡を描くのかなど予見が困難な部分も多かった。
問題はそれだけではない。環境条件に左右されることがないよう測定の際は室内に外部電波が一切入らない設計が求められる。車輌や人の出入りがある中、電波的遮蔽を維持できるよう扉の構造や開閉方法も考えなければいけなかった。それ以外にも、あらゆるサイズの車輌をスムーズに測定するには送信アンテナの可動域をどこまで広げるべきかなど、問題は山のようにあった。
社内で何度も議論を重ね、関係分野の専門家の知見も借りながら、高性能な電波測定サイトを実現する道を探っていった。

測定時間の短縮によって
開発速度を加速させる。

現場社員の「作業効率の向上」も着目したポイントだ。従来の電波測定サイトは一回の測定作業に時間がかかり、順番待ちが起きていた。
今までは垂直・水平の電波をそれぞれ測定しなければならず、送信アンテナをその都度交換する必要があり、測定準備に時間を取られてしまうという課題があった。新電波測定サイトでは送信アンテナを交換せずに垂直・水平両方の電波測定が同時にでき、作業効率が大幅に上がっている。また、周波数の測定箇所を従来の倍以上となる160箇所まで増やすことで一度に測定できる範囲を広げ、車輌一台にかかる測定時間を短縮することにも成功した。
開発担当のIは現場の様子を「一度の測定にかかる手間や時間が大幅に削減されたことで、開発により集中できるようになった。」と語る。

まだ世に出ていない車輌の開発に携わる。
そのアンテナの開発にふさわしい環境をつくる。

測定精度や作業効率の向上に加え、機密情報の保持強化も取り組むべき大きな課題であった腐心したと技術戦略推進室のHは言う。「電波測定サイトで扱うものの中には自動車メーカーにて開発中の機密車輌も含まれているため、それを扱うのにふさわしい施設にするにはどうすればいいかというところも追求した。」
開発中の車輌は世間に公開されていない機密情報であり、社内でも数名の社員にしか明かされないものだ。搬入時や測定時、その他いかなる状況でも開発中の車輌に関する情報を外部に漏らすわけにはいかない。
そこで、新電波測定サイトでは車輌を積んだ輸送トラックごと施設内に入庫できるよう設計した。自動車メーカーから搬出され、当社へ搬入されるまでの間、車輌が一切露出しない仕様にして情報漏えいのリスクを徹底的に防いだ。自動車メーカーから信頼される理由は、こうした高い機密保持機能にもある。
測定の精度や時間、機密性……さまざまな面で高性能を実現した新電波測定サイト。次世代のニーズに向けて社員の熱意がかたちとなった結果、間違いなく「世界最先端」を名乗るのにふさわしいものとなった。高速通信や大容量データ通信により自動運転技術が著しく進化していく中、アンテナ開発は更に加速していく。